ABVD対BEACOPP:欧州における多施設共同研究

進行期のホジキンリンパ腫の場合、治療の選択肢としてABVD療法とBEACOPP療法の2つがあります。選択肢が2つであっても、どちらかを選択するのは容易なことではありません。そこで、この2つの療法の比較が行われた欧州の多施設共同研究についてご紹介していきます。

ABVDとBEACOPPを比較した欧州における多施設共同研究

多施設共同研究の目的

増量BEACOPPは、複数の臨床研究により、ABVDと比べて治療結果が良好で、再発までの期間が長くなることが明らかになっています。そのような理由で、進行期や予後不良のホジキンリンパ腫患者に対する第一選択療法として推奨されていますが、重篤な血液毒性や治療に関連する死亡、二次がん、不妊などのリスクがあり、このような患者に対してBEACOPP療法を行うことに関し、未だに議論の余地があるとされています。

そこで、ABVD療法とBEACOPP療法の両方についての有効性と安全性を比較するために、臨床研究が行われました。

方法

この研究は、ヨーロッパ各地のがんセンターで2009年から2018年の間に実施され、ステージ3・4のホジキンリンパ腫患者372名を対象に遡及的評価が行われました。そのうち、262名がABVD療法を受け、110名がBEACOPP療法を受けました。このグループ分けは無作為では行われずに、高リスク患者がBEACOPPグループに多く割り振られました。

ABVDとBEACOPPを比較した結果

2クールを終了した時点で、PET検査に基づく完全寛解(CR) 率は、ABVDグループが約67%、BEACOPPグループが約78%でした。ABVDグループでは、3名が安定(SD)し、6名に病気の進行(PD)が見られました。それに対し、BEACOPPグループでは、4名に病気の進行(PD)が見られたのに加え、2名が命にかかわる毒性の発現により治療を途中で止めました。

治療を終えた時点での完全奏効(CR)率は、ABVDグループが約76%、BEACOPPグループが約85%でした。治療終了後に、縦隔腫瘤(左右の肺の間に隔てられた部分に発生した腫瘍)に対する放射線療法が必要とされた患者の割合は、ABVDグループが約20%、BEACOPPグループが約14%でした。放射線療法を受けた結果、完全奏効(CR)率は、ABVDグループが約76%から約79%(208名)へ、BEACOPPグループが約85%から約87%(96名)へと微増しました。

このように、BEACOPP療法を受けると、完全奏効率が高くなるのですが、毒性が発現する頻度も高くなります。BEACOPPグループでは、約35%(39名)の患者が毒性の発現により化学療法の減量が必要とされたのに対し、ABVDグループで減量が必要だった患者は約5%(12名)でした。全体として、重篤な毒性が発現した頻度は、ABVDグループよりもBEACOPPグループの方が高い結果となりました。

有害事象等が起きた割合

BEACOPPグループでは、グレード3~4の血液学的有害事象が起きた患者の割合が顕著に増加しました。具体的には、 好中球減少が起きた割合は、ABVDグループでは約24%であったのに対し、BEACOPPグループでは約61%に達しました。貧血が起きた割合は、ABVDグループではわずか4%だったのに対し、BEACOPPグループでは約29%に達しました。同様に、血小板減少が起こった割合も、ABVDグループではわずか約3%だったのに対し、BEACOPPグループでは約29%という高い数字となりました。

さらに、発熱を伴う好中球減少が起こった割合も、ABVDグループでは約3%だったのに対し、BEACOPPグループでは約29%に達し、重症の感染症が起こった割合も、ABVDグループでは約3%だったのに対し、BEACOPPグループでは約18%という結果になりました。最後に、輸血が必要とされた患者の割合も、ABVDグループでは約6%だったのに対し、BEACOPPグループでは半数以上の約51%に達しました。

ABVDとBEACOPPの予後比較

治療中または治療を終えた直後に病気の進行が割合は、ABVDグループが約6%(16名)だったのに対し、BEACOPPグループが約4%(5名)と大きな差が見られませんでした。その一方、化学療法と放射線療法を終えた後に完全奏効に達した患者は、ABVDグループが208名でBEACOPPグループが96名でしたが、その中でABVDグループの約14%(29名)、BEACOPPグループの約8%(8名)に再発が見られました。

平均5年間のフォローアップ期間において、ABVDグループとBEACOPPグループには、無増悪生存期間(PFS)と無イベント生存期間(EFS)に統計的な差が認められず、同様の傾向は、全生存期間(OS)についても見られました。

進行期ホジキンリンパ腫の予後を予測する上で、最も重要なのはベースラインの国際予後スコア(IPS)と呼ばれる予後不良因子の数です。予後不良因子が3個以下の場合は低リスクグループ、3個以上の場合は高リスクグループと分類されました。当然ですが、予後不良因子が少ないほど、予後が良好になります。この研究の結果では、予後不良因子が3個以上の高リスクグループに対してBEACOPP療法を行った場合、無イベント生存期間(EFS)が長くはなりましたが、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)には差が認められませんでした。

フォローアップ期間中に、BEACOPPグループでは骨髄異形成症候群を発症した患者が1名、急性白血病を発症した患者が1名、二次がん(乳がん)を発症した患者が1名いたのに対し、ABVDグループでは二次がん(肺がん)を発症した患者が1名いただけでした。

結論

BEACOPP療法は、特に高リスク患者に対する初期の腫瘍管理には優れてはいますが、長期転帰について見ると、ABVD療法とBEACOPP療法には顕著な差が認められませんでした。

本多施設共同研究に関する用語

1.無増悪生存期間(PFS):患者がその病気と共存しながらも悪化しない期間

2.無イベント生存期間(EFS):患者に何らかの事象(イベント)が起こるまでの期間

3.転帰:疾患・怪我などの治療における症状の経過や結果。治療の効果などを分析する際に重要な要素となる

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